屋根の上のヴァイオリン弾き Fiddler on the Roof

屋根の上のヴァイオリン弾き Fiddler on the Roof

マニア向け
屋根の上のヴァイオリン弾き Fiddler on the Roof
屋根の上のヴァイオリン弾き Fiddler on the Roof

作品レビュー

ショーロム・アレーカムの短篇小説『牛乳屋テヴィエ』を基にしたこのミュージカルだが、1964年に初演されて8年間ロングラン、5回目のリバイバルになる今回のステージは、王様と私)』や『南太平洋』などで、その腕が認められて来ているバートレット・シャー演出である。

この話しはロシアのウクライナ地方のアナテフカ村で牛乳屋を営むユダヤ人一家のお話しである。息子に恵まれず、5人の娘に囲まれ、一人で力仕事を担って大変な生活を過ごしながらも、ユダヤ教の戒律を守って、つつましくも小さな幸せに感謝しながら毎日を送っていた。

テヴィエは娘達にいい結婚相手を見つけようと願っているが、新しい時代の流れには勝てず、

娘達は次々と伝統に対立する恋をして、彼の元を去って行く。いろいろな局面から物事を見つめようという文化を持つユダヤ人らしく、「一方では、こういう見方もできる、しかし一方では、こういう考え方もできる」と何度も2つの考えの間を往復しながら独り言を繰り返すテヴィエには笑ってしまうが、それは伝統を守りたいという気持ちと、娘が望むなら、という気持ちに揺るがされて苦しむ父親の姿でもある。

しかし、そういう悩みをよそに、次第にエスカレートしていくユダヤ人排斥の動きは、アナテフカ村からのユダヤ人追放に至り、テヴィエたちとそこに住むユダヤ人は皆、住み慣れた土地から追放されてしまう。原作ではイスラエルの地へ帰還するが、ミュージカルではテヴィエと家族はニューヨークに向かうところで話が終わる。

テヴィエを演ずるベテラン俳優、ダニー・バーンスティンは多くのファンを持ち、彼の性格の暖かさがこちらに伝わってくる。そして、彼程この作品のユーモアを現代的に上手く表現できる人はいなかっただろう。 ただダニーは声量が弱いので、この悲劇の父親を演ずるには多少軽い感じもあった。テヴィエは、 心の内に悲しみだけでなく、もっと怒りを秘めていてもいいのではないだろうか。生きるのに精一杯の妻のゴールデとの相性の良さが今一感じられなかったのも残念だった。

娘3人のトリオ「Match Makers (結婚仲介の歌)」は一人一人が優れた歌い手で、 聴きがいがある。また、オリジナルのジェローム・ロビンズの振り付けを生かしながら、それを現代的にした振り付け師ホフェッシュ・シェクターの腕は素晴らしい。イスラエル出身で、ストリートダンスも取り入れているその新鮮で個性的な動きは、この作品に不思議とピッタリだった。

『屋根の上のヴァイオリン弾き』という題名は、ユダヤ人画家シャガールの描いた「バイオリン弾き(Green Violinist)」という絵にヒントを得たらしい。 なにしろ誰でも聴いた事のある名曲がぞろっと揃った名作であるから、かなり期待して観に行ったのだが、思った程の感動がなかった。現代的にし過ぎて、最初の魔法が失われたのだろうか。避けがたい時代の流れによって 同化がすでに殆ど終了しかけているアメリカに住むユダヤ人はこれをどう観たのだろうと思い、知り合いのユダヤ人に訊いたところ「Too Jewish」だったらしい。「ユダヤ人過ぎて距離を感じた」ということらしい。反対に現代的にし過ぎて、ユダヤ人過ぎると感じることになったのかも知れない。

今回、シャーはこの作品に大きな修正を加えたいと考えた。今、シリアからの移民を受け入れるべきかいなかの意見が対立しているアメリカで、この作品を現代的にして、もう一度、昔ユダヤ人達も受け入れたのはアメリカなんだ、ということを再度アメリカ人に思い出していたかった様だ。その初演の舞台の創作に携わって今でも生きているのは、作詞家のシェルダン・ハーニック (91歳)だけだ。そこでシャーはハーニックにこの作品に修正の手を加える許可を得ようと会いに行ったガ、ハーニックはオリジナルの作品をそのままに守りたいと思い、シャーの願いを断り続けたそうだ。しかし、結局シャーが説得に成功した。

その修正箇所はというと、冒頭、テヴィエはオリジナルではキッパを被って出て来るが、このバージョンでは、現代的なパ—カーを羽織ってステージに出て来る。その姿でオリジナルの作品にもある台詞「このタイトル、屋根の上のバイオリン、て変だよね。どういう意味かわかる?誰にもわからない」とスタートする。そしてクライマックス、ユダヤ人達がいろいろな国にバラバラになって移民して行く時、テヴィエが最初の赤のパーカー姿になって現れ、離ればなれになるユダヤ人達の姿をじっと眺め、やがてその中の自分の家族にジョインする、というシーンが追加された。 そして、多くのユダヤ人はこれに賛同したらしい。

しかし、ユダヤ人がシリアの戦争難民に同情するというのは不思議でもある。この2つのグループには「犠牲者」とは呼べること以外、似ているところがない様に思える。テヴィエは内戦や政治戦争から逃れるために、自分から移民したいと希望しているわけではない。ユダヤ人の血が体に流れている、ということだけを理由に、1880年、そしてその前からターゲットとして虐待されてきた彼らは、そこに住み続けたかったのに排斥された。一方シリアからの移民は、少数のキリスト教シリア人を除くと、自分の生まれや宗派や人種とは関係なく、内戦による大変な環境から逃げ出したいと希望している人達だ。違う人種から強制的に排斥されているわけではない。

宗派は複雑で、中東の宗派の戦いについて述べる余裕はないが、シリアはシーア派とスンニ派が混ざっており、イスラム教の違う宗派がそれぞれの主張の違いによって戦っている。反面、イスラム教自身は中東からユダヤ人を虐待し続けた歴史があり、今でも多くのイスラム教徒はユダヤ人を嫌っている。そういうイスラム教の移民を、自分たちと同一視するユダヤ人は、ナイーブに思えなくもない。もう一つの不思議は、オバマ大統領がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と仲が悪いのが有名なことなのにも関わらず、ユダヤ人系アメリカ人の投票無しには、オバマ大統領は2度目の政権は握られなかったと言われていることだ。 ファシストから逃げ出した彼らが、ファシストの一つの形でもある社会主義に一番近いと言われるオバマを賞賛する姿も不思議だ。ユダヤ人の話しついでに書くと、アメリカの3%にも至らないユダヤ人だが、人口数650万人。 イスラエルにいるユダヤ人は600万人である。ここアメリカは真に彼らの故郷なのだ。そして、ユダヤ人がブロードウェイを創ってきたと言っても言い過ぎではない。ブロードウェイに携わるアーティストたちの名前を観ていると、そのユダヤ人の多さに驚く。ジョージ・ガーシュウィン、レナード・バーンスタイン、オスカー・ハマースタイン2世、リチャード・ロジャーズ、ハーヴェイ・ファイアスタイン、ジェローム・ロビンズ、スティーヴン・ソンドハイムと彼らの名前は限りなくいくらでも出て来る。ブロードウェイを深く知るには、その背景にいるユダヤ人の歴史も知っておきたいものだ。

メディア評

NY Times: 8
Wall Street Journal : 6
Variety : 7

Broadway Theatre
1681 Broadway
New York, NY 10019

尺:2時間45分 (休憩含む)

舞台セット ★★★★☆
作詞作曲 ★★★★★
振り付け ★★★★★
衣装 ★★★☆☆
照明 ★★★★☆
総合 ★★★★☆

Photo©Joan Marcus

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