ビー・モア・チル Be More Chill

ビー・モア・チル Be More Chill

オフ・ブロードウェイ 話題性あり
ビー・モア・チル Be More Chill
ビー・モア・チル Be More Chill

心に傷を抱えた高校生の青春物語で、そのストーリー、作品や音楽のスタイルなどは同じくオフ・ブロードウェイからブロードウェイに移って見事トニー賞を受賞したミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』と似ている点が多々ある。振付けは日本でもお馴染みのミュージカル『ノートルダムの鐘』ディズニー版のチェイス・ブロックが担っている。

あらすじ&コメント

ミュージカル『ビー・モア・チル』はアメリカ人の ネッド・ヴィジーニが2004年に書いた同名の小説の舞台化。この作者は32歳の若さで自殺したが、他の著書『It’s Kind of a Funny Story/なんだかおかしな物語』 などは青春コメディーとして映画化され、日本でもケーブルテレビなどで放送されている。原作者の没後に産声を上げたミュージカル『ビー・モア・チル』は2015年に米ニュージャージー州で初演され、その後ユーチューブなどの映像による効果で、20代前後の若者の支持を得てきた。キャスト盤の録音がリリースされるとその人気に拍車がかかり、作品が上演されていないのにもかかわらず知名度を高め、徐々にファンを増やしていったのだ。

舞台はニュージャージー州にある高校。母親が家出し父親と二人で暮らす高校生の青年ジェレミーは、人と接するのが苦手で、友人も少なく、女の子たちにも人気がない。そんなジェレミーは、密かに想いを寄せる在校生のクリスティンの気を何とかして引きたいと思っている。ある日、学内のいじめっ子の生徒から、日本で開発されたというSQUIP(Super Quantum Unit Intel Processor/スーパー・クアンタム・ユニット・インテル・プロセッサー)という薬(錠剤)を紹介される。この薬を飲むとカプセルの中の小型スーパーコンピューターが体の中に入り込み脳を刺激、物事を良い方向へと導けるような判断が働くという。つまり「イケてる青年」になれ、女子生徒の人気を得て、男子生徒の間でも支持を得られると言うのだ。ジェレミーは仲の良い友人のマイケルにも相談し、大枚を叩いてこのSQUIPを購入する。 炭酸飲料水マウンテンデュー・グリーンと一緒に飲むと効くというその薬を飲んで学校で注目される人物へとなっていく反面、ジェレミーの思考回路は次第にSQUIPに乗っ取られていき、人生が空回りし始めて、友人マイケルとの関係もうまく行かなくなる。そして、ジェレミーの中のSQUIPの目的は、他の生徒たちの脳も乗っ取って、皆を、そして世界をコントロールするということが暴露されていく。混乱の中、ジェレミーはマウンテンデュー・レッドがSQUIPの解毒剤になることを知る。やっとレッドを手に入れ元の自分を取り戻したジェレミーは、SQUIPの力を借りずに想いを寄せるクリスティンの心を射止め、マイケルとも仲直りをして物語は大団円を迎える。

麻薬を示唆している様なSQUIPは、カルト的でもあり、SFの要素も含んだ青春物語となっているのが特徴。主人公を誘惑する架空の錠剤SQUIPは擬人化され、映画『マトリックス』でキアヌ・リーブズが演じるネオを思わせるキャラクターとして登場する。錠剤SQUIPが日本で開発されたという設定から、日本語の台詞もあり、アジア系の俳優が主演女優や助演男優など主要な枠で出演しているという点でも新鮮だ。これは今、アメリカ人の若者が、日本のサブカルチャーがイケてると受け止めていることを示していると言っていいだろう。

劇中に登場する飲食店や衣料品店などは今の世代のアメリカの高校生たちが足を運ぶ実際にあるチェーン店で、高校生や大学生に絶大な支持を得ている炭酸飲料水のマウンテンデューとSQUIPが重要な関係を持つという設定も面白い。しかし、こうしたアメリカの学生の間のカルチャーについての知識がないと面白さが半減して少々難解な作品かもしれない。実はこのタイトル自体、現代的な「Chill」という言葉の使い方がされている。昔は俗語としてChillは動詞として使われ「リラックスする、落ち着く」という意味を持っていたが、最近は若者の間でこのタイトルの様に形容詞として使われ「イケてる、クールな」という意味を持っている。しかし、アメリカでも大人はこの使い方を知らない人も多い上に、使う人は滅多にいないので、このタイトルだけでも若者が親近感を寄せる要素を持っている。

客席を占めるのは20代前後の若い女性たちが中心で、彼女たちの反応など作品に傾ける情熱は異常なほどだ。フォロワーたちは、楽曲をソーシャルネットワークの映像などで知りつくしているようで、曲が始まる度に熱狂していたのが印象に残る。ニューヨークの演劇専門校AMDAのオーディションでは、同作品のミュージカルナンバーを選曲する若者が多いらしい。そして、他と比べて特に人気のミュージカルナンバーが「Michael in The Bathroom(邦訳:トイレの中のマイケル)」であることは観客の反応からも明らか。親友のジェレミーから相手にされなくなったマイケルが、皆が楽しんでいるパーティーが開かれている家のトイレに一人籠って、そのやるせなさをぶちまけるソロだ。思春期の不安や悩み、そして周囲から浮きたくないというピアプレッシャーなどを代弁しているとしてネット上でこの楽曲が話題に上ったのが、そもそも同作品に注目が集まるきっかけとなった。それもあり、準主役であるにもかかわらず劇中でマイケルが最初に登場する際の客席の熱狂ぶりは群を抜く。

ブロードウェイの大劇場には2月にやってくることが既に決まっているが、勿論その場合はチケット代も高く設定されることとなる。オフ・ブロードウェイ上演中の現在はチケットの通常価格は95ドル、プレミアム席が140ドルに設定されているが、ブロードウェイでの上演となれば設定金額が高騰することは必至。ターゲットの若年層がこれについてこられるのかという疑問も残っている。

9・6・2018

メディア評

NY Times: 6
Wall Street Journal: 8
Variety: 8

Pershing Square Signature Center
480 W 42nd St

尺:2時間15分(15分の休憩含む)

舞台セット ★★★★☆
作詞作曲 ★★★★☆
振り付け ★★★★☆
衣装 ★★★★☆
照明 ★★★★☆
総合 ★★★★★

Photo by MARIA BARANOVA

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